

・・・・・・・もりおか雪明かり H19年2月撮影(主人)・・・・・・
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。
一、五月
二疋(ひき)の蟹(かに)の子供らが青じろい水の底で話てゐました。
『クラムボンはわらつたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
『クラムボンは跳てわらつたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
上の方や横の方は、青くくらく鋼のやうに見えます。
そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
『クラムボンはわらつてゐたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
『それならなぜクラムボンはわらつたの。』
『知らない。』
つぶつぶ泡が流れて行きます。
蟹の子供らもぽつぽつぽつとつゞけて五六粒泡を吐きました。
それはゆれながら水銀のやうに光つて斜めに上の方へのぼつて行きました。
つうと銀のいろの腹をひるがへして、一疋(ぴき)の魚が頭の上を過ぎて行きました。
『クラムボンは死んだよ。』
・
・
・
(下に続く・・・最後まで読んでみてね)
今年も岩手公園で「もりおか雪明かり 2008」が開催されています。
・・・・・・・・もりおか雪明かり H19年2月撮影(主人)・・・・・・
今年のテーマは、宮沢賢治の童話「やまなし」をモチーフにした「もりおか川物語・光の川」です。
蟹、魚、やまなし、の雪像と ボランティアによって作られた3万個以上のスノーキャンドルに明かりが灯され 柔らかな光が公園の石垣を幻想的に浮かび上がらせています。
・・・・・・・もりおか雪明かり H19年2月撮影(主人)・・・・・・
スノーキャンドルの点灯は午後5時半から8時半までです。
・
・
・
続き
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまつたよ………。』
『殺されたよ。』
『それならなぜ殺された。』
兄さんの蟹は、その右側の四本の脚の中の二本を、弟の平べつたい頭にのせながら云(い)ひました。
『わからない。』
魚がまたツウと戻つて下流の方へ行きました。
『クラムボンはわらつたよ。』
『わらつた。』
にはかにパツと明るくなり、日光の黄金(きん)は夢のやうに水の中に降つて来ました。
波から来る光の網が、底の白い磐(いは)の上で美しくゆらゆらのびたりちゞんだりしました。
泡や小さなごみからはまつすぐな影の棒が、斜めに水の中に並んで立ちました。
魚がこんどはそこら中の黄金(きん)の光をまるつきりくちやくちやにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又上流(かみ)の方へのぼりました。
『お魚はなぜあゝ行つたり来たりするの。』
弟の蟹(かに)がまぶしさうに眼を動かしながらたづねました。
『何か悪いことをしてるんだよ とつてるんだよ。』
『とつてるの。』
『うん。』
そのお魚がまた上流(かみ)から戻つて来ました。
今度はゆつくり落ちついて、ひれも尾も動かさずたゞ水にだけ流されながらお口を環(わ)のやうに円くしてやつて来ました。
その影は黒くしづかに底の光の網の上をすべりました。
『お魚は……。』
その時です。
俄(にはか)に天井に白い泡がたつて、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾(だま)のやうなものが、いきなり飛込んで来ました。
兄さんの蟹ははつきりとその青いもののさきがコンパスのやうに黒く尖(とが)つてゐるのも見ました。
と思ふうちに、魚の白い腹がぎらつと光つて一ぺんひるがへり、上の方へのぼつたやうでしたが、それつきりもう青いものも魚のかたちも見えず光の黄金(きん)の網はゆらゆらゆれ、泡はつぶつぶ流れました。
二疋はまるで声も出ず居すくまつてしまひました。
お父さんの蟹(かに)が出て来ました。
『どうしたい。ぶるぶるふるへてゐるぢやないか。』
『お父さん、いまをかしなものが来たよ。』
『どんなもんだ。』
『青くてね、光るんだよ。はじがこんなに黒く尖つてるの。それが来たらお魚が上へのぼつて行つたよ。』
『そいつの眼が赤かつたかい。』
『わからない。』
『ふうん。しかし、そいつは鳥だよ。かはせみと云ふんだ。大丈夫だ、安心しろ。おれたちはかまはないんだから。』
『お父さん、お魚はどこへ行つたの。』
『魚かい。魚はこはい所へ行つた』
『こはいよ、お父さん。』
『いゝいゝ、大丈夫だ。心配するな。 そら、樺(かば)の花が流れて来た。ごらん、きれいだらう。』
泡と一緒に、白い樺の花びらが天井をたくさんすべつて来ました。
『こはいよ、お父さん。』弟の蟹も云ひました。
光の網はゆらゆら、のびたりちゞんだり、花びらの影はしづかに砂をすべりました。
二、 十二月
蟹(かに)の子供らはもうよほど大きくなり、底の景色も夏から秋の間にすつかり変りました。
白い柔かな円石もころがつて来小さな錐(きり)の形の水晶の粒や、金雲母(きんうんも)のかけらもながれて来てとまりました。
そのつめたい水の底まで、ラムネの瓶(びん)の月光がいつぱいに透とほり天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしてゐるやう、あたりはしんとして、たゞいかにも遠くからといふやうに、その波の音がひゞいて来るだけです。
蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので睡(ねむ)らないで外に出て、しばらくだまつて泡をはいて天井の方を見てゐました。
『やつぱり僕の泡は大きいね。』
『兄さん、わざと大きく吐いてるんだい。僕だつてわざとならもつと大きく吐けるよ。』
『吐いてごらん。おや、たつたそれきりだらう。いゝかい、兄さんが吐くから見ておいで。そら、ね、大きいだらう。』
『大きかないや、おんなじだい。』
『近くだから自分のが大きく見えるんだよ。そんなら一緒に吐いてみよう。いゝかい、そら。』
『やつぱり僕の方大きいよ。』
『本当かい。ぢや、も一つはくよ。』
『だめだい、そんなにのびあがつては。』
またお父さんの蟹が出て来ました。
『もうねろねろ。遅いぞ、あしたイサドへ連れて行かんぞ。』
『お父さん、僕たちの泡どつち大きいの』
『それは兄さんの方だらう』
『さうぢやないよ、僕の方大きいんだよ』弟の蟹は泣きさうになりました。
そのとき、トブン。
黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうつとしづんで又上へのぼつて行きました。キラキラツと黄金(きん)のぶちがひかりました。
『かはせみだ』子供らの蟹は頸(くび)をすくめて云ひました。
お父さんの蟹は、遠めがねのやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云ひました。
『さうぢやない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、あゝいゝ匂(にほ)ひだな』
なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂ひでいつぱいでした。
三疋(びき)はぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追ひました。
その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るやうにして、山なしの円い影を追ひました。
間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔(ほのほ)をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹(にじ)がもかもか集まりました。
『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟してゐる、いい匂ひだらう。』
『おいしさうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』
親子の蟹(かに)は三疋自分等の穴に帰つて行きます。
波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいてゐるやうでした。
[???#図形 □(四角)に内接する◆???]
賢治の「やまなし」は、小学校の国語の教材でした。「クラムボンってなんだろう」というのが話題になって皆で話したのを覚えています。賢治の作品は、メルヘンなんだけどどこかシビア。自然の厳しさや生きることの刹那さが、織り込まれていますよ〜。
近所のおばあちゃん。(去年亡くなりましたが)実家が花巻で、お兄さんが賢治の教え子だったとか。教育者賢治は、「これからの農民も、博学を身に付けねばならぬ」と彼に大学進学(今の岩大)を諭し、反対する親をも説得して下さったそうです。そんな先生に学べるなんて幸せですよね〜。
すごいなぁ〜
寒いから・・・は理由にならないんですね。
見事に纏められた1冊の本のようです。
素晴らしい知識と感性に拍手!です。
童話の作品からは 想像できない 情熱的な先生だったんですね賢治さんは。
私生活は 買ってまでも、苦労を背負い込み・・・
楽な方に・・・と人は逃げ出すのが普通なのに・・・
そう考えると どの作品も大好きになってしまいます。
クラムボンに関しては、いまだに謎で 論議が交わされていますね。
結局 蟹の世界の蟹語の会話だから・・・
解らなくて良いんですよね。
そうです 丸ごと1冊転記しました。
どこか一番良いところと考えたんですが・・・
今の季節からすると二部編成の2番目が「やまなし」の綺麗な季節ですがそこだけ書くと 中途半端なようで・・・・
自分が読み返しても良いかな・・・と思って全部書きました。^^;
sakuraさん
今次男は入院しています。
毎日 公園下を通りますが ゆっくり見ていられませんが・・・
昨年 本館で使った写真があったので引っ張りでして、活用しました。
いつもコメントありがとう!
これも、見に行ったことがないです
今年は雪が多いから綺麗でしょうね
写真は去年の?
今年は行かれましたか?
やまなしのお話は、暗記するくらい読みました
賢治の世界の奥の深さを感じる作品のひとつですね
大好きな賢治の作品 暗記するくらい読みふけったんですね。
よく解りますよ文学少女だった雰囲気が。
今日で終わりましたね、市内の雪明かりも小岩井の雪祭りも。
結局小岩井には見に行くことが出来ませんでしたが、公園下や中津川で行われた雪明かりは 毎日病院の帰り横目で見ながら通りました。
派手さのない雪明かりですが 柔らかいスノーキャンドルの明かりが心和ましてくれ 綺麗な景色でしたよ。